壮大な曲の作り方

「壮大に」という発注に、何をどう作れば応えられるのか。サウンドと構成の両方から、広く大きく聞かせる方法を確かめます。

楽曲コンペ 募集要項(抜粋)
新曲 候補募集※授業用の架空の発注書
プロデューサーより
今回は、とにかく壮大な曲をお願いします。聴いた人の目の前に、大きな景色が広がるような一曲。映画やアニメのエンディングで流れても負けない、スケールの大きさが欲しいです。
楽曲仕様
イントロ〜1番のサビまで以上(それより長くても可)。デモで可。メロディと歌詞を入れてください。

※授業用に作った架空の発注書です。実在の企業・団体・楽曲とは関係ありません。

この注文に、どう応える?

発注書の「壮大」には、サウンドと構成の両方で応えます。そもそも壮大な曲とは何かを確かめ、サウンド面の2つ、構成面の3つを確かめ、サビ直前に一瞬抜く落差の仕組みも確かめてから、最後に課題に取り組みます。

そもそも、壮大な曲とは?作り方の前に、目指す物を決める

0-1壮大な曲とは?

壮大な曲にするには、楽曲自体に広い印象を持たせる必要がある。

聴いた人が、自分よりずっと大きな物を目の前にしたように感じる曲です。この授業では、その「広さ」を、音の高さ・空間・時間の3つに分けて作ります。

広い印象を作る3つの広さと、このページで扱う所。
研究

畏敬(いけい)の気持ちは、「自分よりずっと大きい」と感じることと、「今までの考えに収まらない」と感じることの2つから生まれる、と心理学者が整理しています。1 これは音楽の研究ではありません。上の3つの広さは、それを音楽に当てはめた、この授業の整理です。

サウンド面広く聞かせる音づくり 2つ

1-120Hzから20,000Hzまで、全部出す

低い音から高い音まで、20Hzから20,000Hzまで全部出す。

特に壮大に聞かせたい部分では、必ず全部出します。

イメージ図
壮大にしたい場面では、一番下のサブベースから一番上の空気感(Air感)まで隙間なく埋める。
研究

鳥肌(ゾクッ)が起きやすい所の特徴の1つに、鳴っている音の高さの範囲が、上や下へ広がることが挙げられています。2 ただし「広げれば必ず鳥肌が立つ」とまでは言えません。

1-2立体感:遠い音と近い音を分ける

広い部屋で演奏している様子を音で表すために、遠くで鳴る音と近くで鳴る音の区別をしっかりつける。

イメージ図
すべての楽器に同じリバーブをかけると単に音が濁るだけ。手前の音と奥の音の落差を作ると、巨大なホールのような奥行きが生まれる。
研究

人は主に、音の大きさ・響き・高い音の量の3つで、音までの距離を聞き分けています。遠い音ほど小さく、響きの割合が増え、高い音が減ります。3 ただし、この研究は距離の聞き分けを調べたもので、「リバーブを足せば壮大になる」とまでは言えません。

構成面広く聞かせる組み立て 3つ

2-1構成全体でダイナミクスをつける

ミニマルから壮大になるから、広く聞こえる。

Aメロ・Bメロ・サビが全部壮大だと、別に壮大に聞こえません。

イメージ図
線の高さは、その場がどのくらい大きく・厚く聞こえるか。低い所を作っておくから、サビの頂が大きく見える。
研究

鳥肌は、音の大きさなどがはっきり変わる所、特に急に変わる所で、くり返し報告されています。2 「変わる」を作るには、先に小さい所が要ります。

2-2歌詞をサウンドに合わせる

tuki.「晩餐歌」

サウンドが壮大になる所で、スケール感(時間・場所・情景)を広げる言葉を組み込む。

時間だけでなく、視界が広がる「場所」や、空気感が変わる「情景」の言葉を重ねることで、音の広がりと歌詞のイメージが一体になって壮大に響きます。

HACHI「透明軌道」
「ネオンの川を渡って」
場所・情景:夜の街を川に見立てて大きく渡っていく広がり
haruka nakamura + suis from ヨルシカ「スターライト」
「スターライト」
空間・情景:夜空いっぱいに広がる星の光を見上げる
Mrs. GREEN APPLE「lulu.」
「いつかね」
時間・情景:遠い未来へ意識を飛ばす

「年数・回数」といった時間の長さだけでなく、「川・星空」などの広い情景や空間、「未来」といった時間の広がりを、サビの広がるサウンドに重ねてみてください。

2-3コードかメロディを、ループではなく長く取る

コードかメロディの少なくともどちらか、またはどちらも、短いループではなく長く取る。

短いくり返しは、すぐに同じ所へ戻ってきます。片方でも長く取ると、同じ所へ戻らずに先へ続いていく、長い流れに聞こえます。

コードを長く取る場合

Mrs. GREEN APPLE「lulu.」

メロディは同じリズムでくり返していても、コード進行を長く取れば壮大に聞こえる。

lulu. のサビは、メロディが同じリズムでくり返しています。その代わり、コード進行がサビ全体で非常に大きな流れになっていて、感動をより引き立てています。

例

カノン進行(C G Am Em F C F G)。8つのコードで1周する、長い進行です。

基本がループでも、代理コードなどを使えば長く聞かせられます。

メロディを長く取る場合

tuki.「晩餐歌」

コードが短い間隔でくり返していても、メロディを長く取れば壮大に聞こえる。

晩餐歌は、コードの移り変わりが早く、しかもループしています。その上で、メロディのくり返しは一度しかありません。長い物語を紡ぐようなメロディにすると、壮大で説得力があり、感動させる曲になります。

コツ

メロディに露骨なくり返しを使わない。リズムはくり返しても、音程はくり返さないなど工夫します。

キャッチーとの違い

キャッチーな曲は、くり返して覚えてもらう。壮大な曲は、くり返さずに先へ進む。

サビ直前の落差壮大になる手前で一瞬抜く

3-1サビの直前で一瞬音を抜く(ブレイク)

壮大になる直前であえて一瞬だけ音を止める(抜く)ことで、サビの爆発力を最大にする。

ずっと鳴り続けている状態からサビに入っても、音の壁が続くだけで広がりを感じにくくなります。サビ直前に一瞬の「静寂(空白)」を挟むことで、直後に音が全開になった瞬間のスケール感と迫力が何倍にも跳ね上がります。

イメージ図
サビに入る直前の半拍〜1拍、リズム隊やベースを一瞬ミュートするだけで、直後のサビが巨大に響く。
手法のヒント

サビの頭の直前でキックやベースを完全ミュートする、シンバルやフィルインのあとに一瞬だけ無音(またはボーカルの息づかいだけ)を残すなど、「音の隙間」を作ってからサビの1拍目を鳴らします。

出典

  1. Keltner, D., & Haidt, J. (2003). Approaching awe, a moral, spiritual, and aesthetic emotion. Cognition and Emotion, 17(2), 297–314. doi.org/10.1080/02699930302297
  2. de Fleurian, R., & Pearce, M. T. (2021). Chills in music: A systematic review. Psychological Bulletin, 147(9), 890–920. doi.org/10.1037/bul0000341
  3. Kolarik, A. J., Moore, B. C. J., Zahorik, P., Cirstea, S., & Pardhan, S. (2016). Auditory distance perception in humans: A review of cues, development, neuronal bases, and effects of sensory loss. Attention, Perception, & Psychophysics, 78(2), 373–395. pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4744263